「もし、トヨタが日本で同じやり方を始めたら?」筆者は、複数の民放テレビ関係者からそう聞いた。
ジテレビ以外の3社が前年度比マイナスで、あまりよくなかった。
そして、「実は、その次の四半期の数字も、よくない。
世の中は好景気で、株式や土地はバブルとすらいえるほど好調なのにパッとしないのは、メーカーがテレビCMを絞りはじめたからだ」と解説する関係者も出始めた。
『テレビは今、何をすべきか』と第一回民放の根幹を揺るがす、ある「漠然とした期待感」が実は砂上の楼閣で、テレビの広告がいよいよ崩れ落ちつつあるというのである。
インターネットの広告は、そうした砂上の楼閣に対するアンチテーゼとして登場したと言ってもいいかもしれない。
だから登場当初から、広告効果をきちんと測ることが強く求められたのだ。
しかしネットの広告だからといって、テレビCMや雑誌広告と比べて必ずしも広告効果が高いわけではない。
ネット広告代理店はバナー広告を「クリックの回数を保証しますよ」「クリックがなければ広告代金はいりません」とPRして広告主に売り込んだ。
それでも最初のころはバナー広告は利用者に人気が高く、クリックされる率が高かったから問題なかった。
ところが数年経つうちにどんどんクリック数が減ってしまい、バナー広告の効果は下がってしまったのである。
クリック数をリアルタイムに計測でき、広告効果がダイレクトにわかるーというのがバナー広告の売り文句だったから、この事態には広告代理店も困ってしまった。
そして自どうして人々はバナー広告をクリックしなくなってしまったのだろう?理由はふたつあった。
ひとつは、「情報のインフレーション」が起きてしまったことだった。
九〇年代以降、インターネットが爆発的に普及していく中で、毎日、毎日ものすごい数のホームページが生まれ、人々に読まれるようになっている。
その勢いはいまもとどまるところを知らず、おそらく九〇年代初頭には数万程度しかなかったであろうホームページの数は、現在ではもちろんその一方で、利用者の数も増えている。
しかし利用者の増加を越える割合でホームページの数は増えているから、単純計算すれば、ホームページひとつあたりの利用者の数は相対的に減少してしまう。
バナー広告も同様で、見に行きたいホームページが山のようにあるのに、わざわざ興味もない広告をクリックする人が、だんだん減っていってしまったのは当然のことだった。
もうひとつの理由は、当時はまだバナー広告を出す広告主の種類が限られていて、同じような企業の広告ばかりが表示されるようになり、飽きられてしまったことだ。
今でこそ大手化粧品メーカーや自動車メーカーなどの誰でも知っている大企業がインターネットにも広告を出しているが、ネット広告黎明期だった当時は、IT関連企業の広告が中心で、さらに言えば消費者金融やアダルト産業などの広告も少なくなかった。
どんなホームページを見ても、いつでも似たような広告ばかりが表示されているような状態になってしまって、ますますバナー広告は飽きられてしまったのである。
そんなわけで広告主の企業から見ると、ネット広告は一瞬盛り上がったものの、すぐに効果は落ちてしまってあまり意味のないものになってしまった。
さんざん広告料金をふんだくられ、効果が期待できないまま新たな広告媒体を次々と押しっけられる1ネット広告に対し、そんなイメージを抱くようになった企業は少なくなかったのだ。
そんな状況の中に登場したのが、「キーワード広告」だった。
キーワード広告が最初アメリカで登場したとき、多くの人は「そんなもの、本当にうまくいくのか?」とにわかには信じなかった。
キーワード広告を発明したのは、オーバーチュア(最初の社名はゴートゥー)の創設者だったビル・グロスという起業家である。
彼は「この広告はすごい!」と満を持して作り上げ、一九九八年にカリフォルニア州モントレーで開かれたある会議で発表した。
このときの様子は、二〇〇五年に日本語版も刊行された『ザ・サーチグーグルが世界を変えた』に紹介されている。
このプレゼンテーションにグロスは自信満々で臨んだが、グロスが説明を始めると会場の評価は、ゴートゥーは頭で考える限りでは興味深いが、いささか過激に理解されないのも当然だった。
検索エンジンの検索結果に広告を入れるというのは何だかピンとこなかったうえに、キーワード広告は表示される場所が小さくて、バナー広告のような派手なデザインを持たせることができなかったからである。
七十九ページの画面の短い文章だけで構成されている。
「いかにして視聴者(利用者、読者)の目を引くか」という一点に絞って作られた華やかなテレビCMや雑誌のグラビア広告とは、対極に位置する存在と言ってもいいほどだ。
さらに言えば、インターネットの世界では検索エンジンの検索結果というのは公平中立でなければならないと考えられていた。
検索結果に広告を混ぜるというのは、まるで新聞社が記事の中に広告記事を混ぜ込んでしまうようなものだと考えられ、グロスにはマスコミところがグロスがキーワード広告を一九九八年六月に実際に始めてみると、インターネット業界はすぐにその凄さを思い知らされる結果となった。
広告をクリックする利用者が八千社にまで達し、売り上げは一千万ドル規模に達した。
そしてグーグルがこのモデルを真似るかたちで、二〇〇二年に同じようなキーワード広告「アドワーズ」をスタートさせた。
そしてこの二社が市場を分け合うかたちでキーワード広告は急成長していったのである。
ではなぜ、キーワード広告はこれほどまでに人々に受け入れられたのだろうか。
なぜバナー広告は飽きられてクリックされなくなっていたのに、人々はやすやすとキーワード広告をクリックするようになったのだろうか。
それは、検索エンジンというサービスの持つ意味が、インターネットの中できわめて重要になっていたからだった。
もっと具体的に言えば、多くのインターネットユーザーにとって、検索エンジンはインターネット利用の「玄関口」のようなものになっていたからなのである。
たとえば先ほどの「かぐらざか花店」の例を使って、人々がどうやって花をインターネットで買うのかを考えてみよう。
ホームページを閲覧するソフト「インターネット・エクスプローラ」で、目的のホームページに行き着くためには、いくつかの方法がある。
もっとも初期のころに主に使われていた方法は、画面の上部にある「アドレス」欄だった。
ここにホームページのアドレスを直接打ち込んで、「かぐらざか花店」のホームページに行くという方法だ。
面倒なようだが、昔はこうした方法でいちいちホームページを開いていたのである。
さらに一歩進んだ使い方は、かぐらざか花店のホームページを「お気に入り」に登録しておき、次に見たいときは「お気に入り」からたどって開く、というやり方だった。
検索エンジンの登場次いで出てきたのは、ヤフーなどの総合ホームページにある「ディレクトリ」を経由してホームページにたどりつく、という経路だった。
「ディレクトリ」というのは住所録の意味。
ヤフーのホームページを見ると「エンターテインメント」「趣味とスポーツ」「メディアとニュース」といったようにカテゴリー分けされ、さまざまなホームページへの道をたどれるようになっている。
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